(ハルとセンターボードの合計の)CLRと、CLEの前後位置が完全に一致している船を想定します。この船をもしフラットで走らせれば、ラダーにはまったく力がかかりません。セーリング中にティラーを離しても、まっすぐ走って行きます。セーリング中にラダーが消滅したとしても、まっすぐに走って行きます。
これが、“船がまっすぐ走ろうとする=ニュートラルヘルムである”ということです。
ニュートラルヘルムの船では、フラットである限りラダーに力がからないので、ラダーがどんなに後ろに振れていても、ティラーを持つ手に重さを感じません。
もしこの船がヒールすれば、船はラフしようとします。この時、もしラダーが適切な量後ろに振れていれば、ティラーを持つ手は引っ張られ、ウェザーヘルムを手で“感じ”ます。
逆にアンヒールすれば、船はベアしようとします。ラダーが適切な量後ろに振れていれば、ティラーを持っている手は押され、リーヘルムを手で“感じ”ます。
次に、(ハルとセンターボードの合計の)CLRにたいし、CLEが後ろにある船を想定します。この船は、たとえフラットで走らせていても、もしラダーがなければ、勝手にラフしていってしまいます。船をまっすぐ走らせるためには、ラダーをベアする方向にきって、船がラフしようとする力を打ち消す必要があります。これが、“ウェザーヘルムがある”ということです。(上記)
ティラーを引き、ラダーが船のスターンを風上に押すように力を発生しているとき、反作用で、ラダーに風下側から押す力が加わります。(上記)
さて、この風下側から押す力の作用点が、ピンドルの軸上になるまでラダーを前に振れば、ティラーを持つ手にはこの力は伝わりません。つまり「ウェザーヘルムがある=船が勝手にラフしようとする傾向があるのに、手ではウェザーヘルムを“感じない”状態」になります。
この船がヒールしてラフする力がさらに強くなっても、大きくアンヒールしてベアしようとしても、ラダーに加わる力の作用点がピンドル軸上にあるので、その力は手に伝わらず、手で感じるティラーの重さは常にゼロです。
つまり、ラダーが前に振れている状態というのは、「ウェザーヘルムがない」のではなく、「ウェザーヘルムがあっても、リーヘルムがあっても、手に伝わらない」状態です。
・船自体がまっすぐ走ろうとしている(=ニュートラルヘルム)から、ラダーに力が加わらない。だからティラーを持つ手に重さを感じない。
・船はまっすぐ走らずにラフしようとしていて、ラダーに風下から押す力が加わっているのに、ラダーが前に振れているせいで、それがティラーを持つ手には伝わらない。だからティラーを持つ手に重さを感じない。
この二つは、結果的にティラーを持つ手に重さを感じない、という感覚上の現象は同じですが、船自体がまっすぐ走ろうとしているか、ラフしようとしているかという、大きな大きな違いがあります。
たんに手の感覚だけに頼っていて、頭で理解していないと、両者の区別ができません。
本当の意味でのウェザーヘルムが強すぎる=CLRにたいし、CLEが大幅に後ろにある場合の問題点はなんでしょうか?
もし、CLRとCLEの前後位置が完全に一致していれば、ブローに入って風速が増加しても、船はそのまままっすぐ走ります。CLRとCLEが打ち消し合ったまま、それぞれのベクトルの大きさが大きくなるだけですから。ラルに入ったときも、同様に船はまっすぐ走り続けます。
一方で、本当の意味でのウェザーヘルムがある=CLRとCLEが前後方向に離れている場合、風速が増加した時、すなわちCLRとCLEのベクトルの大きさが増加した時、船にかかるトルクが増加します。つまり(ヒールトリムが完璧で、フラットなままであっても)ブローに入ると船はラフしようとします。ですから、ティラーを引きたさないと、船は切りあがって、止まってしまいます。逆に、ラルに入ったときは、ティラーを引く量を減らさないと、船はベアして角度をロスします。
つまり、本当の意味でウェザーヘルムがある=CLRとCLEがずれている場合、フラットなまま走っていても、ブローとラルで船がラフしようとする力が変化し、風速の変化にたいして細かくラダーを使わなければ、船がまっすぐ走らなくなります。
ラダーが後ろに振れていて、ヘルムの変化がティラーを持つ手に伝わるようになっていれば、風速が変化して船がラフしようとしたときに、実際に船の向きが変わる前に、それを手で感じ取って、カウンターを当てることができます。ラダーを前に振って、ヘルムを感じ取れなくしてしまうと、実際に船の向きが変わって、パワーが抜けてから気付くことになります。これでは、波の谷と山、ブローとラルごとに、スピードと角度を繰り返しロスすることになります。
“これ以上、1度でもラフしたら失速する、ギリギリのライン”で乗ることに慣れてくると、手で感じる重さ云々ではなく、“風速が変化したときに、自分が思い描いた理想のラインから、船が勝手にズレようとする傾向”として、ウェザーヘルムを視覚で感じることができます。これが本当の意味でのウェザーヘルムの感覚です。くどいですが、この本当の意味でのウェザーヘルムを放置したまま、ラダーを前に振って手で感じる重さだけ減らせば、船が止まる徴候を事前に感じ取れなくなるので、ますます止まりやすくなります。
具体的には、波の頂上でティラーを引きたさないと、バウが上に振れて、理想のラインより上って失速してしまうことが多いです。(上に振れると言っても、1度弱、デジタルコンパスでも分からない程度です。が、確実に失速します。)
本当の意味でのウェザーヘルムが大きすぎると、風速の変化にたいして船がブレやすくなります。また、アンヒールがかかってもリーヘルムが出ず、ウェザーヘルムのままです。
逆に、本当の意味でのウェザーヘルムがなく、完全なニュートラルヘルムやリーヘルムだと、高さが取りにくいし、ふとした瞬間にベア傾向が出て乗りにくいです。
適切なウェザーヘルムの目安は、平水面で安定した風の中、フラット(正確には、適切なヒール角)で走っている時に、ティラーを約1度引いた状態でまっすぐに走る、ということです。
ラダーが前に振れすぎていると、前述のように、船がラフ・ベアしようとするのを手で感じることができず、クローズのラインは外すわ、強風のフリーでフラフラするわ、いいことありません。
ラダーが後ろに振れすぎていると、ほんのちょっとしたヒールの変化で起こるヘルムの変化を“強く感じすぎる”=“ティラーを持つ手が強く引っ張られたり、押されたりする”ため、ティラーを持った手がブレやすくなり、チョッピーな波の中で船をまっすぐ走らせにくくなります。ウェザーヘルムだけでなく、リーヘルムが出たときに手が押される力も、強くなります。これは、たとえ船自体のヘルムが適切であっても起こります。本当の意味でウェザーヘルムが強い、ということと、ラダーが後ろに振れすぎていることを区別する必要があります。
本当の意味でのウェザーヘルムが強い場合、対処は、CLRを後ろに下げるか、CLEを前にするかしかありません。
セールの形は完璧なのに、ウェザーが強い=「風速が変わるたびに、船が理想のラインからズレる」場合、一番簡単なのは、センターを5ミリから1センチぐらい上げて、後ろに振ることです。
ところで、旧学連艇は、フラットで理想的なヘルム、かつ正しいラダーの振り角であっても、ヒールしたときのウェザーヘルム、アンヒールしたときのリーヘルムが強く出る傾向があるように思います。
これは「ヒールアンヒールにたいするヘルムの変化量が大きい」ということであり、ハルの接水部分の形状が、ヒールした時に大きく変化するために起こっていると思います。いずれにしろ、これはラダーの振り角とも、CLR・CLEの位置とも、別の現象です。
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