3.ウェザーヘルムとラダーの振り角

ウェザーヘルムの定義

 

ウェザーヘルムを手で感じるティラーの重さや、走りながらティラーを離したときに船がラフする速さ、と定義している人は多いと思います。この定義には“船がどれぐらいラフしたがる傾向があるか(本来のウェザーヘルム)”と“それによってラダーにかかる力が、どれぐらいラダーを回転させるか(ヘルムの感じ方)”という二つの要素が入っています。「ウェザーがない」というときに、本当にウェザーがないのか、感じないだけなのか区別する必要があります。


ここではウェザーヘルムを「CLEと、ラダー以外のCLRのずれによって発生するヨーモーメント」と定義します。別の言い方では「走っているときにラダーが突然消えた場合に、船がラフする速さ」ともいえます。つまりラダーの働きを無視したときの、船のラフしたがる傾向のことです。CLEが、ラダー以外のCLRより後ろにあると、(ラダーを除いた)船全体は風上にむけて回転しラフしようとします。これがウェザーヘルムです。


ウェザーヘルムがある状態でまっすぐ走るには、ラダーを使ってこの回転を止めなければいけません。ラダーを水流に対して斜めにして、ラダーが発生する力でウェザーヘルムを打ち消します。ウェザーヘルムが強いほどラダーは大きな力を発生しなければいけないので、ラダーのアタックアングルが大きくなります。ですからウェザーヘルムは「まっすぐ走るためにラダーを引いておかなければいけない量」とも言い換えられます。

 

ラダーの振り角

 

ウェザーヘルムがあり、ラダーを引いた状態でまっすぐ走っているとき、ラダーは風下側から押されています。

ラダーが風下側から押されると、ティラーをもっている手にはどのように力がかかるでしょうか? 引かれる? 押される?

ラダーの振り角によってどっちもありえます。ラダーにかかる力の中心が、ガジョンの回転軸より後ろにあればティラーは引かれます。前にあれば押され、一致していれば手にはなにも感じません。同じウェザーヘルムでも、ラダーを後ろにふれば振るほどティラーは強く引かれます。前に振っていくとティラーが引かれる力がどんどん弱くなり、なくなり、やがて逆転します。

 

学連ラダーでは、ガジョンの軸からまっすぐ下ろした線に、ラダーの先端が触れるところから1センチ前に振ったところが適切です。買ったままだと前に振れすぎるので、ラダーヘッドとラダーの間にスペーサーをいれましょう。走っている途中に上がってこないように、ボルトはがっちり締めましょう。

 

質問が多いので、追加

 

 (ハルとセンターボードの合計の)CLRと、CLEの前後位置が完全に一致している船を想定します。この船をもしフラットで走らせれば、ラダーにはまったく力がかかりません。セーリング中にティラーを離しても、まっすぐ走って行きます。セーリング中にラダーが消滅したとしても、まっすぐに走って行きます。

 これが、“船がまっすぐ走ろうとする=ニュートラルヘルムである”ということです。

 ニュートラルヘルムの船では、フラットである限りラダーに力がからないので、ラダーがどんなに後ろに振れていても、ティラーを持つ手に重さを感じません。

 もしこの船がヒールすれば、船はラフしようとします。この時、もしラダーが適切な量後ろに振れていれば、ティラーを持つ手は引っ張られ、ウェザーヘルムを手で“感じ”ます。

 逆にアンヒールすれば、船はベアしようとします。ラダーが適切な量後ろに振れていれば、ティラーを持っている手は押され、リーヘルムを手で“感じ”ます。

 

 

 次に、(ハルとセンターボードの合計の)CLRにたいし、CLEが後ろにある船を想定します。この船は、たとえフラットで走らせていても、もしラダーがなければ、勝手にラフしていってしまいます。船をまっすぐ走らせるためには、ラダーをベアする方向にきって、船がラフしようとする力を打ち消す必要があります。これが、“ウェザーヘルムがある”ということです。(上記)

 ティラーを引き、ラダーが船のスターンを風上に押すように力を発生しているとき、反作用で、ラダーに風下側から押す力が加わります。(上記)

 さて、この風下側から押す力の作用点が、ピンドルの軸上になるまでラダーを前に振れば、ティラーを持つ手にはこの力は伝わりません。つまり「ウェザーヘルムがある=船が勝手にラフしようとする傾向があるのに、手ではウェザーヘルムを“感じない”状態」になります。

 この船がヒールしてラフする力がさらに強くなっても、大きくアンヒールしてベアしようとしても、ラダーに加わる力の作用点がピンドル軸上にあるので、その力は手に伝わらず、手で感じるティラーの重さは常にゼロです。

 つまり、ラダーが前に振れている状態というのは、「ウェザーヘルムがない」のではなく、「ウェザーヘルムがあっても、リーヘルムがあっても、手に伝わらない」状態です。

 

・船自体がまっすぐ走ろうとしている(=ニュートラルヘルム)から、ラダーに力が加わらない。だからティラーを持つ手に重さを感じない。

・船はまっすぐ走らずにラフしようとしていて、ラダーに風下から押す力が加わっているのに、ラダーが前に振れているせいで、それがティラーを持つ手には伝わらない。だからティラーを持つ手に重さを感じない。

 この二つは、結果的にティラーを持つ手に重さを感じない、という感覚上の現象は同じですが、船自体がまっすぐ走ろうとしているか、ラフしようとしているかという、大きな大きな違いがあります。

 たんに手の感覚だけに頼っていて、頭で理解していないと、両者の区別ができません。

 

 

 本当の意味でのウェザーヘルムが強すぎる=CLRにたいし、CLEが大幅に後ろにある場合の問題点はなんでしょうか?

 もし、CLRCLEの前後位置が完全に一致していれば、ブローに入って風速が増加しても、船はそのまままっすぐ走ります。CLRCLEが打ち消し合ったまま、それぞれのベクトルの大きさが大きくなるだけですから。ラルに入ったときも、同様に船はまっすぐ走り続けます。

 一方で、本当の意味でのウェザーヘルムがある=CLRCLEが前後方向に離れている場合、風速が増加した時、すなわちCLRCLEのベクトルの大きさが増加した時、船にかかるトルクが増加します。つまり(ヒールトリムが完璧で、フラットなままであっても)ブローに入ると船はラフしようとします。ですから、ティラーを引きたさないと、船は切りあがって、止まってしまいます。逆に、ラルに入ったときは、ティラーを引く量を減らさないと、船はベアして角度をロスします。

 つまり、本当の意味でウェザーヘルムがある=CLRCLEがずれている場合、フラットなまま走っていても、ブローとラルで船がラフしようとする力が変化し、風速の変化にたいして細かくラダーを使わなければ、船がまっすぐ走らなくなります。

 ラダーが後ろに振れていて、ヘルムの変化がティラーを持つ手に伝わるようになっていれば、風速が変化して船がラフしようとしたときに、実際に船の向きが変わる前に、それを手で感じ取って、カウンターを当てることができます。ラダーを前に振って、ヘルムを感じ取れなくしてしまうと、実際に船の向きが変わって、パワーが抜けてから気付くことになります。これでは、波の谷と山、ブローとラルごとに、スピードと角度を繰り返しロスすることになります。

 

 “これ以上、1度でもラフしたら失速する、ギリギリのライン”で乗ることに慣れてくると、手で感じる重さ云々ではなく、“風速が変化したときに、自分が思い描いた理想のラインから、船が勝手にズレようとする傾向”として、ウェザーヘルムを視覚で感じることができます。これが本当の意味でのウェザーヘルムの感覚です。くどいですが、この本当の意味でのウェザーヘルムを放置したまま、ラダーを前に振って手で感じる重さだけ減らせば、船が止まる徴候を事前に感じ取れなくなるので、ますます止まりやすくなります。

 具体的には、波の頂上でティラーを引きたさないと、バウが上に振れて、理想のラインより上って失速してしまうことが多いです。(上に振れると言っても、1度弱、デジタルコンパスでも分からない程度です。が、確実に失速します。)

 

 本当の意味でのウェザーヘルムが大きすぎると、風速の変化にたいして船がブレやすくなります。また、アンヒールがかかってもリーヘルムが出ず、ウェザーヘルムのままです。

 逆に、本当の意味でのウェザーヘルムがなく、完全なニュートラルヘルムやリーヘルムだと、高さが取りにくいし、ふとした瞬間にベア傾向が出て乗りにくいです。

 適切なウェザーヘルムの目安は、平水面で安定した風の中、フラット(正確には、適切なヒール角)で走っている時に、ティラーを約1度引いた状態でまっすぐに走る、ということです。

 

 ラダーが前に振れすぎていると、前述のように、船がラフ・ベアしようとするのを手で感じることができず、クローズのラインは外すわ、強風のフリーでフラフラするわ、いいことありません。

 ラダーが後ろに振れすぎていると、ほんのちょっとしたヒールの変化で起こるヘルムの変化を“強く感じすぎる”=“ティラーを持つ手が強く引っ張られたり、押されたりする”ため、ティラーを持った手がブレやすくなり、チョッピーな波の中で船をまっすぐ走らせにくくなります。ウェザーヘルムだけでなく、リーヘルムが出たときに手が押される力も、強くなります。これは、たとえ船自体のヘルムが適切であっても起こります。本当の意味でウェザーヘルムが強い、ということと、ラダーが後ろに振れすぎていることを区別する必要があります。

 

 本当の意味でのウェザーヘルムが強い場合、対処は、CLRを後ろに下げるか、CLEを前にするかしかありません。

 セールの形は完璧なのに、ウェザーが強い=「風速が変わるたびに、船が理想のラインからズレる」場合、一番簡単なのは、センターを5ミリから1センチぐらい上げて、後ろに振ることです。

 

 

 ところで、旧学連艇は、フラットで理想的なヘルム、かつ正しいラダーの振り角であっても、ヒールしたときのウェザーヘルム、アンヒールしたときのリーヘルムが強く出る傾向があるように思います。

 これは「ヒールアンヒールにたいするヘルムの変化量が大きい」ということであり、ハルの接水部分の形状が、ヒールした時に大きく変化するために起こっていると思います。いずれにしろ、これはラダーの振り角とも、CLR・CLEの位置とも、別の現象です。

  

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