13.トラピーズフックの位置・オーバーパワーのヒール角

 

 ハーネスのフックを、どこにつけたら船がより起きるかという話です。頭のほう?足のほう?

 この間質問を受けたので書くことにしました。

 

船に働く力の釣り合い

 

フルパワー以上の風の中、ヒール角一定で安定して走っている船を考えます。

簡単に考えるため、船と乗員をひとかたまりの物体とみなします。

この物体に外部から働く力を考えます。

A:セールなどにかかる風圧の横方向の成分。かかる位置はCLEです。

B:センターボードなどにかかる、横流れをとめる力。かかる位置はCLRです。

C:船と人にかかる重力。かかる位置は船、乗員の合成重心です。

D:船にかかる浮力。かかる位置は浮心です。

リーウェイ一定で釣り合っているのでAの大きさ=Bの大きさです。またCの大きさ=Dの大きさです。

 ヒール角一定のとき、この物体のどこにも回転運動は起こっておらず、この物体上のどの点をとってもそのまわりのABCDによるモーメントの合計はゼロです。

 以下では、仮想の回転軸Rを船の中心にとり、このRまわりのモーメントで考えます。

 

フックの位置は。。。

 

 さて、船を起こすちからを大きくしたければ、Cの大きさを大きくするか、合成重心の位置をより風上側に動かす必要があります。

 が、トラピーズフックをどう動かしても、艇の重量と体重の合計は変わらないし、合成重心の位置にも変化は起こりません。(正確には、トラピーズフックをより頭の近くにつけるほど、フック、リング、トラピーズワイヤーが風上側に移動するので、その重さのぶん合成重心の位置がわずかに風上側に移動しますが・・・)

 フックの位置を動かして、トラピーズワイヤーの張力やワイヤーがマストを引く角度を変化させても、ヒールを起こす力は変わりません。体重計の上で、自分で自分の襟首をつかんで下に引っ張っても、体重が重くならないのと同じです。

 トラピーズフックの位置は、動作のしやすさ、楽にトラピーズを続けられるか、ボディパンプしたときの効きやすさなどで選ぶのが正解です。

 

これじゃつまらないので

 

 ところで、ヒールを起こす力を大きくしたいのはなぜでしょう?クルーがフルトラにでているときのA、すなわちそのチームの身長体重でかけられる最大のAを、SCP(sail carrying power)というそうです。

 ヒールを起こす力を大きくしたいのは、SCPを大きくするためです。SCPが増えれば、そのぶんセールをパワフルにしてスピードを上げたり、ブームを引き込んで角度をとったりできます。

 

 ここで注目して欲しいのはDの位置です。ヒールすると、ハルの接水面が風下に移動するので浮心も風下に移動します。するとDの起こすモーメントが大きくなり、より大きなAおよびCと釣り合うようになります。

 逆に考えると分かりやすいです。オーバーパワーでフラットで走っている状態から、シートを引き込んでAを増加させると、少しヒールした状態で釣り合います。これは、Aの増加によりヒールがおこり、それにより浮心が風下に移動、Dによるモーメントが増加し、Aの増加と釣り合ったからです。(ヒールにより風が逃げ、Aが減少した効果もあります。ヒール角が大きくなるほど、こっちの効果が大きくなります。)

 SCPの増加によるメリットが、ヒール角の増加によるデメリットを上回るなら、よりヒールさせて走るべきです。

 実際には5度弱のヒールで走っていると思います。完全なフラットで走っているときよりブームが引き込めるので角度がとれます。ヒールさせすぎるとブローで加速せずに突っかかる感じになります。

(アンダーパワーで、少しヒールさせるとパワーがついた感じがする、というのとは全然別の話です。この場合はCが減少しヒールが起こり、Dの増加とAの減少により釣り合います。つまりセールパワーは減少します。パワーと“パワー感”は別です。)

 

 スキッパーがハイクアウトするのはかなり有効です。スナイプのような低いハイクアウトではなく、シングルハンドのようなひざを伸ばし気味にして、上半身を寝かせすぎないハイクアウトがいいです。じゃないと水しぶきで何も見えなくなります。

 クルーはまっすぐ爪先立ちで伸びるのはもちろんですが、両腕をバンザイするとこれまたかなり効果的です。

 あと、トラピーズにぶら下がってるだけだと結構寒いですからね。トレーナーかなんか着ちゃうとあったかい上に、トレーナーが水を含んで重くなってヒールが起きるオマケつきです。

 この3つをやるかやらないかで、半ピン以上変わると思います。

 

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